Euler の摩擦ベルト伝動理論(静的モデル)
キャプスタンとはロープやケーブルを巻き付けて、摩擦力で引っ張り重量物を動かすための回転式の機械で、ウィンチに類似したものです。
【キャプスタンの特徴と役割】
- 構造:垂直に立った回転ドラム(巻胴)を持ち、ロープを数回巻きつけて使用します。ウインチと異なり、ロープ自体をドラムに蓄積(収納)せず、人の力やモーターの動力補助として摩擦力で引っ張るのが特徴です。
- 主な用途:船を岸壁に固定するための「もやい索(係船索)」の巻き取りや調整、小型船でのアンカー(錨)や網の引き揚げなどに使われます。
- 動力:昔の帆船では船員が棒(バー)を押して人力で回していましたが、現代の船舶では電動式や油圧式が主流です。
| 項目 | キャプスタン | ウィンチ |
| ロープの固定 | 固定しない(巻き付けるだけ) | ドラムの根元に固定する |
| 巻き取り制限 | 制限なし(ロープがどれだけ長くても引ける) | 制限あり(ドラムに収まる長さまで) |
| 軸の向き | 垂直(縦型)が一般的(水平もある) | 水平が一般的 |
| 作業の特徴 | ロープの箸を人間や別の機械が引く必要がある | スイッチ一つでドラムがすべて巻き取る |
| 機械の例 | 揚網機 | 揚錨機 |



・ウィンチの場合はロープがドラムに固定なので、何十回でも巻き付ければ良いですが、帆船のキャプスタンや揚網機の場合は巻き付けるその先から収納が必要でずっとそこに巻き付けたままには出来ないので、巻き数はせいぜい3回以下です。この程度の巻き数でもロープは滑って解けることはありません。なぜ巻き付けるだけで滑らなくなるのか、それを説明したものがEulerのベルト摩擦方程式と呼ばれるものです。(別名キャプスタン方程式、アイテルワインの公式)
身近な例
例えばベランダの手摺に自分よりも重い分銅をロープで留めていると想像している下さい。手摺に巻き付けない場合は、留めおくのに分銅と同じだけの力で上方向に引っ張り上げる必要があります。
次に90°だけ巻き付けるとその力は減少します。更に巻き付ける角度を大きくすると力は減少します。
以上が小さな力で重いものでもロープの摩擦力により物体を留めおくことが出来ることを感覚的に説明したものになります。

巻き付け無しの場合$F_0=Mg$
キャプスタン方程式の導出



上記の図1は、ロープが円柱に巻き付くことで張力がどのように変化するかを示したものである。 ロープの両端には張力が作用しており、力の小さい側を Ts(Slack side tension:ゆるみ側張力)、 力の大きい側を Tt(Tight side tension:張り側張力) と呼ぶ。
巻き付けがない場合、ロープは物体の重さと同じ張力を必要とするため Tt = Ts となる。
しかしロープを円柱に巻き付けると、接触面で摩擦力が働き、 ロープが円柱に沿って進むにつれて張力が徐々に増加する。 その結果、同じ物体を保持するために必要な力 Ts は大きく減少し、 巻き付け角が大きいほど Tt と Ts の張力差が大きくなる。

図1で緩み側のロープが最初に接触する点をゼロ点とする。ここから角度φだけ進んだ位置に於ける微小部分での力のつり合いを考える。
図2の様にこの部分に於ける緩み側の張力をTとすると、この位置にて発生する摩擦力により、張り側の張力はΔTだけ大きくなっている。
また、張り側と反対方向にロープが引っ張られることにより円筒に発生する垂直抗力$N$に比例して摩擦力$\mu N$が作用している。
これらの力をx-y方向に分解し、力のつり合いの式を立てて微分方程式を導くことにより、キャプスタン方程式が求められる。

図3の様にロープに張力をx,y方向に分解する。ここで、張力とx軸のなす角は$\frac{d\phi}{2}$になることに注意。
図より以下の関係が成り立つ
x方向のつり合い: $(T+\Delta T)\cos\frac{d\phi}{2}-T\cos\frac{d\phi}{2}-\mu N=0$ ・・・①
y方向のつり合い: $N-(T+\Delta T)\sin\frac{d\phi}{2}-T\sin\frac{d\phi}{2}=0$ ・・・②
①②式を整理する。
①より $\Delta T\cos\frac{d\phi}{2}-\mu N=0$ ・・・③
②より $N-2T\sin\frac{d\phi}{2}-\Delta T\sin\frac{d\phi}{2}=0$ ・・・④
ここで、以下の近似式を使う。
$\cos\frac{d\phi}{2}\simeq 1$ $sin\frac{d\phi}{2}\simeq\frac{d\phi}{2}$
③より$\Delta T-\mu N=0$ ⇒ $\Delta T=\mu N$ ・・・⑤
④より$N-2T\frac{d\phi}{2}-\Delta T\frac{d\phi}{2}=0$
ここで第3項は微小の微小なので無視すると、$N-Td\phi=0$ ⇒ $N=Td\phi$ ・・・⑥
⑤⑥より$\Delta T=\mu Td\phi$ 移行して$\frac{\Delta T}{T}=\mu d\phi$ ・・・⑦
両辺積分して $\int\frac{\Delta T}{T}=\int\mu d\phi$ ・・・⑧
⇒ $log_eT+C_1=\mu \phi+C_2$ ・・・⑨
積分定数をまとめると $log_eT=\mu \phi+C$ ・・・⑩
境界条件φ=0のときの張力はTsなので、$log_eT_s=\mu ・0+C$ ・・・⑪
⇒$C=log_eT_s$ ・・・⑫
$log_eT-log_e T_s=\mu \phi$・・・⑬
⇒ $log_e \frac{T}{T_s}=\mu\phi$ ・・・⑭
これを指数表記すると、
$\frac{T}{T_s}=e^{\mu \phi}$ ・・・⑮
Tについて解くと、キャプスタン方程式
$T=T_s e^{\mu \phi}$ ・・・⑯
が導かれる。
ところで、これは一般式であり、緩み側張力がTsのときの巻き角φのときの張り側張力Tを示しています。
これを一般化すると、
$T(\phi)=T_s e^{\mu \phi}$ ・・・⑰
であらわされます。
図1に於いて表示した巻き角θのときの張力Ttは以下となります。
$T_t=T_s e^{\mu \theta}$ ・・・⑱
物理的な意味
ロープやベルトが円柱に巻き付くと、接触面において微小区間ごとに摩擦力が作用する。 この摩擦力は張力の増加を引き起こし、ロープが円柱に沿って進むにつれて張力が指数関数的に増大する。 すなわち、巻き付け角が大きくなるほど、ゆるみ側の小さな張力でも張り側の大きな荷重を保持できるようになる。
この現象は、ロープが円柱に接触する各微小区間で
という関係が成り立つことに由来する。 張力の増加量 は、その区間における張力 と摩擦係数 、そして微小角度 に比例する。 この微小な増加が巻き付け角全体にわたって積み重なることで、 張力比が指数関数的に増加するという特徴的な結果が得られる。
したがってキャプスタン方程式
は、摩擦力が「一度に大きく働く」のではなく、 微小区間の摩擦が連続的に積み重なった結果として張力が指数関数的に増加する という物理的事実を表している。
この性質により、ロープ、ベルト、ウインチ、クライミング、係留装置などにおいて、 わずかな保持力で大きな荷重を支えることが可能となる。
最後に
いかがでしたでしょうか。導出過程がややこしいのですが、一切省略はしていないつもりなので、ご理解いただけたのではないでしょうか。
やはり、物理は直感的にとらえられることがもっとも重要です。
これからも平易な記述で、物理、数学、専門分野について解説していこうと思います。
尚、今後の展開としては、動的モデルに置き換えて、更にVベルトの理論的考察をしてより現場に役立つ知識へと発展させて行きたいと思います。
【備考】 ΔT と dφ の使い分けについて
本導出では、ロープが円柱に接触する微小区間を考えるために、 二つの異なる種類の微小量を用いています。。 それが 微小角度 と 張力の微小増加量 です。数学が得意な人からすると一見チグハグに見えるかもしれませんが、物理的な意味を重視しました。同じ意味なので最後は記号を変えて積分すればよいかと思います。
1. 微小角度
は、ロープが円柱に沿ってわずかに進むときの 幾何学的な微小角度である。 円柱に巻き付いたロープは、接触面に沿って角度方向に変化するため、 この角度の微小量がロープの位置を表す自然な変数となる。
2. 張力の微小増加量
ロープが微小角度 だけ進むと、摩擦力の作用により張力がわずかに増加する。 この増加量が であり、力学的な微小量である。 したがって、 はロープの張力がどのように変化するかを表す量であり、 幾何学的な量である とは役割が異なる。
3. 二つの微小量の関係
微小区間におけるつり合い式から
が得られる。 ここで、 はロープの位置の変化を表し、 はその位置変化に伴う張力の増加を表す。 両者は同じ「微小量」であるが、意味と役割が異なるため記号を統一しない方が良いとか考えた。
4. 記号を統一しない理由
もし を と書き換えたり、 逆に を と書き換えると、 幾何学的微小量と力学的微小量の区別が曖昧になり、 式の意味が不明確になる。 本導出では、両者の役割を明確に区別するために 幾何学的微小量 → 力学的微小量 → として記号を使い分けている。

